みなさんはLIBERTY GRAPHICS(リバティ・グラフィックス)をご存じでしょうか。
Stock Hillでは、動物や自然をモチーフにしたプリントのスウェットやTシャツをよく置いています。
オオカミ、アライグマ、クジラ、蝶と花。
リアルに細かく描き込まれたイラストが好きで、こういうものが多いのも、個人的に古着が好きな理由の1つです☺︎
一枚一枚を眺めていると、プリントの端に小さくブランド名が入っていることがあります。その中に、たびたび現れる名前があります。
「LIBERTY GRAPHICS」

調べてみると、メイン州の人口1000人ほどの小さな町で、47年間、同じ場所でTシャツを刷り続けている会社でした。

その中で分かったのは、この会社が同じメイン州のアウトドアブランドL.L.Beanのプリントを刷っていたこと。
そんなLIBERTY GRAPHICSの理念が素敵すぎました☺︎
ここではその魅力をお伝えします。
1977年、人口1000人の町で
メイン州ウォルドー郡に、リバティという小さな町があります。


1977年、この町が創立150周年を迎えました。地元住民のトム・オッパーは、記念のクラフトフェアの企画を任されます。
そこで記念のTシャツを作ろうと思いましたが、刷ってくれる業者が見つかりませんでした。
だったら自分で刷ろう。
マスタードイエローの生地に、緑のインクで「150 years of Liberty … and still going strong(リバティの150年、まだまだ元気だ)」のプリントを載せました。

オッパーと当時のパートナーだったアーティストのビバリー・コセンコには、創作好きの友人がたくさんいました。
彼らは木曜の夜になるとオッパーの家に集まり、シャツのデザインを描きました。
そして二人は、敷地内のトレーラーの中で、手作業でシャツを刷り始めました。
その場所で、リバティ・グラフィックスは半世紀後の今も続いています。
町の名前が、そのままブランドの名前になりました。
「自然を壊さずに、生きていく方法」
ここで、この会社について一番大事なことを書いておきたいと思います。
それは彼らが会社を立ち上げた動機です。公式サイトには、こう書かれています。
リバティ・グラフィックスが設立されたのは、地元に根ざした芸術家と職人のコミュニティである私たちが、メイン州リバティの自然の美しさを損なわない生計の手段を探していたときでした。
「自然を壊さずに食べていく方法はないか」を探した結果が、これでした。
同じページには、こうも書かれています。
自然界の驚異にデザインの重点を置き、厳格な生態学的基準を満たす生産方法を用いる。環境への配慮は、常に私たちのすべてに反映されてきました。
だから彼らのデザインは、創業から一貫して自然界がモチーフです。
両生類、爬虫類、鳥、天体、植物、昆虫。数百種類のデザインすべて自然を描いています。
そして大前提、環境への配慮を徹底しているのです。
「プラスチックも、化学溶剤も使わない」
どのような部分で環境への配慮をしているのか。通常との違いについて書いていきます。
公式ページにはこう書かれています。

なぜ水性インクなのか?
リバティグラフィックスは創業当初から、印刷工程において水性インクのみを使用しています。PVCフリーの水性インクを使用することで、当社は健康的な職場環境を実現し、お客様には肌触りの良い衣類をお届けできます。従来の印刷会社とは異なり、当社に必要な溶剤は水のみです。印刷後の清掃では、その水をろ過して再利用しています。
プリント部分の柔らかな肌触りは、石油系インクのように製品表面に留まるのではなく、水分が衣服の繊維に吸収されるためです。この特性により、プリント製品はプラスチックが溶ける心配なく高温のアイロンをかけることができ、また、活動的な身体が熱くなった際に衣服の繊維を通して空気が自由に移動することができます。
創業者のトム・オッパーは、自分の知る限りリバティ・グラフィックスがアメリカで最初に水性インクを使ったTシャツプリンターだ、と語っています。
そして彼は、「水性インクの方がより鮮やかで美しい色が出る」とも言います。
長年の水性インクの経験と、手作業による版分け。この二つが、彼らのプリントの正確な描き込みと鮮烈な発色を支えています。
発色だけではありません。 現代のデジタルプリントは、洗濯を繰り返すとひび割れて欠けていきます。でも水性インクのスクリーンプリントは、生地と一緒に、少しずつ均一に色が抜けていきます。
なので30年経っても、まだ着られる。
ちなみにこの「色が抜けていく」現象、実はインクが落ちているわけではないそうです。
水性インクは生地そのものに結合しているので、洗っても剥がれません。
褪せて見えるのは「フィブリル化」といって、コットンの微細な繊維が洗濯によって立ち上がり、インクが淡く見えるようになる現象なんだそうです。
つまり色が落ちたんじゃなくて、生地の表情が変わっただけ。
古着のプリントもののあの独特の風合いって、そういうことだったんですね。
この30年とはどのようにして出てきた数字なのか。 それはLIBERTY GRAPHICSにとっての大きな出来事で、後ほど紹介いたします。
同じメイン州の、L.L.Beanへ
1980年代、彼らは地元のクラフトフェアやフェスティバルでシャツを売り歩いていました。同社の精緻で発色の良いプリントは評判を呼び、徐々に需要が高まり、アウトドア業界のみならず博物館や水族館などで販売されるようになりました。
そして90年代までに、卸売の顧客はこう変わります。
– ネイチャー・カンパニー
– アメリカ自然史博物館
– モントレーベイ水族館
– L.L.Bean
同じメイン州フリーポートに本社を置くアウトドアの老舗ブランドのL.L.Beanが、車で1時間ほどの小さな町の印刷所にシャツを発注していました。
そして現在に至るまで地元の自然や産業とともに成長し、州の園芸家協会やプロサッカーチームに、オイスターフェスティバルまで様々なコラボレーションを行っています。
L.L.Beanの創業者レオン・レオンウッド・ビーンも、濡れる猟靴に嫌気がさして自分で防水ブーツを作るところから始めた人でした。地元で作り、地元で信頼を積み上げてきたブランドが、同じ土地で丁寧にものを作る会社を選んだのです。
👉 [#2.なぜ僕らはL.L.Beanに魅了されるのか]

消えた印刷所の、素晴らしい絵
ここで、もう一つの会社の話をさせてください。
同じメイン州のベルファストという港町に、ハーバーサイド・グラフィックスという会社がありました。
この会社も同じように1980年代から90年代にかけて、動物園、博物館、水族館、ネイチャー・アウトドア系のシャツを刷っていて、プリントの端に名前が入っていることがあります!
そして僕らの大好きなL.L.BeanやORVIS・REI向けにシャツを刷っていた会社です。
👉 [#5.なぜ僕らはORVISに魅了されるのか]

このハーバーサイドのデザインも本当に良いんです。
下の2つの商品は実際にStockHillにも入荷したことのあるものです!


図鑑のような正確さと、手描きだからこそ出るリアル感。「Field Guide to(〜の図鑑)」と題されたシリーズは有名で、一枚のシャツの中に何種類もの鳥や魚が、種名とともに並んでいます。
このように企業のロゴを大きく載せるのではなく、自然そのものを主役にするデザインが多く存在します。
しかしそんなハーバーサイドは、90年代後半に廃業します。
会社が消えれば、普通はそれで終わりです。版もデザインも、廃棄されて消えていく。
でも、そうはなりませんでした。
リバティ・グラフィックスが、彼らの数百点にのぼるアーカイブデザインを買い取ったのです。
そして今も、その中のクラシックなデザインを刷り続けています。
では、なぜリバティがそれを引き継いだのか。
2025年のポートランド・プレス・ヘラルド紙の記事に、ヒントがありました。モントレーベイ水族館がわざわざメイン州でTシャツを作った理由について、こう書かれています。
「ハーバーサイド・グラフィックスとリバティ・グラフィックスが、優れたアートワークと環境に配慮した製造方法で、全米的な評価を得ていたから。」
証言したのは、1991年からリバティ・グラフィックスで働くアートディレクター。
ハーバーサイドが現役だった時代を知る人物です。
同じ州で、同じように自然を描き、同じように環境に配慮して作っていた二つの会社は、
片方が消えたとき、もう片方がその絵を引き取ったのです。
2021年、社員が会社を買った
2021年、創業者のトム・オッパーは会社を売却します。
その売却先は、そこで働く従業員たちでした。
ブランドと顧客リストと評判だけを目当てにした買い手ではなく、リバティ・グラフィックスで実際に働き、この町とこの仕事を愛している人たち。
LIBERTY GRAPHICSに関わるデザイナーは多く、版画家やイラストレーターをはじめ、生物学者、フライフィッシャー、野鳥図鑑著者に児童書作家など、性別もジャンルも様々です。
売却時点で25人ほどが協同組合を組織し、会社を買い取りました。中には26年間働いてきた店舗マネージャーもいます。
「半分以上の人が、25年前からここにいるんです」(創業者トム・オッパー)
そうして会社は従業員所有の協同組合(Liberty Graphics Employee Cooperative)になりました。
理事長を務める従業員は、こう語っています。
「私たちには、会社の運営について発言権があります。全員が生活できる賃金を得ること、地元のアーティストを支援すること、そして環境を保全し守ること。それが私たちの野心的な目標です」
利益を最大化する株主ではなく、そこで働く人たちが会社を持っている。
だから「儲かるかどうか」より先に「どうありたいか」を決められる。
個人的に、この会社の在り方はL.L.Beanなどが株式会社にしていないのと近しい物を感じます!
売上よりも大事な物を追っている姿が素敵です!
そして面白いのが、会社を手放した創業者のその後です。
オッパーは引退しませんでした。
今度は「Liberty Organics」という会社を立ち上げ、アメリカ産のオーガニックコットンで無地のTシャツボディを作っています。
その卸先は、リバティ・グラフィックス1社だけ。
「うちの顧客はここ1社だけです。他のスクリーンプリント会社に売るつもりはありません」
会社を社員に譲った創業者が、今度はその会社のためだけに、オーガニックコットンの生地を作っている。
2025年10月、世界が動いた
それでは、先ほどお話しした30年経ってもまだ着られるを具体的に表すエピソードについて書いていきます!
2025年10月3日、テイラー・スウィフトの新アルバム『The Life of a Showgirl』のプロモーション映画が公開されました。
その中の一場面。彼女が着ていたTシャツが一瞬映りました。
色褪せていましたが、「Monterey Bay Aquarium(モントレーベイ水族館)」の文字と、仰向けに浮かぶ2匹のラッコの絵が見えました。

翌日、リバティ・グラフィックスの社内でメールが飛び交います。
「見た瞬間に分かりました。あ、うちのデザインだって」
そのラッコの絵は、彼らがハーバーサイドから引き継いだアーカイブの中の一枚でした。
約30年前に水族館のために作られ、それ以来32年間、一度も刷られていなかったデザインです。
彼らはアーカイブから版を探し出し、同水族館のラッコ保護のチャリティープログラムを計画。
その際にテイラーと同柄のTシャツを返礼品にしました。
65.13ドル以上の寄付でこのTシャツがもらえる。目標は130万ドル。
この目標はなんとたったの7時間で突破しました。
総額は237万4332ドル。日本円にして約3億5000万円と目標を大きく上回る結果となりました。

リバティ・グラフィックスには創業47年で最大の受注がありました!
もちろん復刻版も当時と同じように作られました。
・PVCフリーの水性インク。
・洗濯でマイクロプラスチックを出さない100%コットン。
・パッケージもプラスチックフリー。
1800年代の農家を改装した工房で、50人の従業員が、1日1500枚を刷り続けることになりました。
作られてから30年経ったTシャツをテイラースイフトが着ていたこのエピソードが、
水性インクのものでも長く着られることを表してますね!
30年後に、絵の描き手が見つかった
このエピソードには、続きがあります。
実はリバティ・グラフィックス自身、あのラッコを誰が描いたのか分かっていませんでした。
ハーバーサイドから引き継いだ数百点のアーカイブの中の、名もなき一枚だったからです。
そこで彼らは、ブームが起きた最初の1週間で描き手を探し出します。
見つかったのは、同じメイン州カムデンに住む絵本作家、クリス・ヴァン・ダーセン。
『The Circus Ship』などで知られる作家でした。

90年代当時の彼は、雑誌や広告代理店の仕事をしながら、ハーバーサイド・グラフィックスのために動物や海洋生物のイラストを描いていました。
本人いわく、野生生物の図鑑に載っているイラストを真似た、リアルな画風で描いていたそうです。
そして先ほど紹介した「Field Guide」シリーズの絵も、彼の手によるものでした。
そしてここが素敵なところで、リバティ・グラフィックスは彼を見つけたあと、きちんと本人と契約を結び、報酬を支払いました。 さらにTシャツに同封するカードに、彼の名前を載せたのです。
リバティの担当者はこう話しています。
「ヴァン・ダーセンが当然受けるべき評価を得られて、嬉しいです」
30年前に描かれ、会社が消え、名前も分からなくなっていた絵。 それが世界中に届くとき、ちゃんと描いた人の名前が添えられた。
ちなみに現在、リバティ・グラフィックスの壁には彼の作品が飾られていて、フィールドガイドのシャツも今なお販売されているそうです。
なんか嘘みたいに全部が全部綺麗な話で、環境はもちろんですが全てに敬意を払っているリバティ・グラフィックスに心がもってかれています😂
ファストファッションへのアンチテーゼ
このキャンペーンで、僕が一番いいなと思った部分を書いていきます。
水族館はこのTシャツを、「ファストファッションへのアンチテーゼ」として打ち出しました。
理由はシンプルで、テイラーが着ていたオリジナルのTシャツが、「約30年間もったから」。
30年前にメイン州の小さな印刷所が水性インクで刷った一枚が、色は褪せながらも、世界一有名なポップスターに着られるまで生き残った。
ちなみに、テイラーがどこであのTシャツを手に入れたのかは分かっていません。
古着屋で見つけたという説と、ラッコ好きを知るファンからの贈り物だという説があります。
ちなみに、環境に配慮しているリバティ・グラフィックスは、傷んで売り物にならなくなったTシャツを四角く切り、洗って社内のトイレのハンドタオルとして使っているみたいです。
こういうのを聞くと口先だけではなくてしっかり環境のことを考えて行動しているのが素敵ですよね!
なぜ僕らが魅了されるのか
以前、[人と服が地球を傷つける中、古着屋の僕たちにできること]

という記事を書きました。
服を作ることが自然を壊していること。それでも新品がゼロになる世界は来ないこと。
だからこそ、長く使えるものを次の人に渡すことに意味があると思っていること。
そしてアウトドアブランドを扱う僕たちにできることはないかと、売上の1%を埼玉の自然保護に寄付し始めたこと。
リバティ・グラフィックスにも同じようなものを感じました。
自然を壊さずに生きる方法として会社を始め、プラスチックも溶剤も使わないインクを選び、30年もつシャツを作り、消えた会社の絵を引き継ぎ、社員が会社を継ぎ、創業者は今度その会社のためにオーガニックコットンを作っている。
商売と自然保護は、対立させなくていい。
むしろ「自然を壊さずに食べていく方法はないか」という問いから始めた会社が、47年続いて、世界中から注文が来るまでになった。
「たくさん作って売る」のではなく、「長くもつものを作る」。
誰かが大切にしてきた一枚を、次の誰かに渡すこと。
古着で見つけたプリントのデザインで選ぶことが一番良いと思いますが、
この話を思い出したときにプリントの端に小さく入った文字をぜひ探してみてください。
そして調べてみてください☺︎
するとそこには面白いエピソードがあるかもしれません。そしてそれを知ることで、その1枚が、めちゃくちゃ特別に見えてくるかもしれません。
参考:Liberty Graphics公式サイト、Monterey Bay Aquarium公式サイト、Portland Press Herald、Bangor Daily News、Green & Healthy Maine、Down East

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